はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

お肉の個人輸入は密輸です!

オクトーバーフェストの時期になりました。
例年なら、きっとあちこちで、ビールを満喫するみなさんが見られたかもしれません。
でも今年は、コロナのせいで難しい…
だから、せめてお取り寄せ。
ドイツビールに合うおつまみといえば、やっぱりウインナー!
ヴルスト、という ドイツ語もなんとなくかっこいいんですよね。


でもね。
ウインナーやジャーキーをはじめとした、お肉やお肉の加工製品は、基本的に輸入禁止
ごく一部、証明書があれば輸入ができるというものもありますが、個人輸入では、そういった証明書をとることはまず無理なので、実質輸入不可なんですね。
コストコ成城石井、カルディなどで売られている外国製のお肉やお肉の加工食品は、ああいった大企業が 現地の工場などからきっちりと管理して初めて輸入ができるものなんです。


この証明書は、熱や圧力をどれだけかけたか、ということを工場が証明し、さらにそれを輸出元の国がお墨付きを与えて、初めて手に入るものです。
この、熱や圧力をどれだけかけたか、というのは、たとえば お鍋で30分煮ました、とか、圧力鍋で15分加圧しました、といったことではなくて、工場にある大きな機械で、機械の中の熱や圧力を測るなどして証明するもの。
機械自体の価格はもちろん、電気代、場所代、そこまでして何を測るの?といったこともあって、個人のレベルでは、まず持っていない機械です。
ドイツウインナーによくある、町のお肉屋さん特製!手作り!といったウインナーでは、証明書を取ることはできないのですね。


どうして1号が急にこんな話を始めたかというと、恐ろしい豚の病気、ASFがドイツで発生したからです。


ASFは、とても致命率の高い豚の病気。
しかも、経過がものすごく早く、ワクチンが作れず、そして 豚自身は死んでも お肉の中でウイルスが長く生きるという特徴のある病気です。
この、いちばん最後が 今回の話に深くかかわっているんですね。


豚のお肉の中で、ウイルスが長く生きる。
ということは、豚肉や豚肉の加工食品の中に、ウイルスが残っている可能性があるわけですよね。
とはいえ、ウイルスが絶対残りえないくらいに加工を加えれば、大丈夫そうです。
では、ウイルスが絶対残りえない、って具体的にどれくらい?
それを専門家がいろいろと分析し、みんなで検討して出した結論が、さきほどの証明書に書くこと。
つまり、大きな機械で内部の熱や圧力を測る、測った結果を輸出元の国にお墨付きをもらう…ということです。
鍋で煮たところで、煮た人がそう言ってるだけかもしれません。
圧力をかけたつもりが、ちゃんとかかっていないかもしれません。
だから、証明書のついていないお肉や、必要なことが正しく書かれていないお肉の加工食品の輸入はできないんです。


でも、豚の病気でしょ?
お肉やお肉の加工食品を豚にあげなければいいんじゃない?
とお思いの方。
実は、このウイルスは、お肉の外でも そこそこ長く病原性が保たれます。
つまり、お肉の中でなく、お肉の包み紙やポリ袋などからも、ウイルスはうつってしまうんですね。
そして、お肉や加工食品の包み紙は、基本的にいい匂いがします。
カラスなどがゴミ捨て場をあさるときも、最初にこうした匂いのあるものからつつかれるのですね。
そして、ウイルスのついたゴミを持ってカラスが飛んでゆき、たまたま豚のいる農場でそれが落ちたら…


ありえない、と思うでしょうか。
でも実際、専門家による分析などでは、十分あり得る話と考えられています。


先週末から、群馬県の養豚場では豚の殺処分が行われています。
これは、CSFという違う病気が原因なのですが、そもそも長く日本では出ていなかったこの病気が なぜ出たのか。
それは、密輸されたお肉が原因なのではないか?という可能性があるのです。
つまり、密輸されたお肉にウイルスが入っていて、それが豚にうつってしまった。
さらに、そのウイルスが、豚の窃盗団により、各地にばらまかれ、病気が出てしまっている。
このような可能性があるのですね。


コロナで 外食や旅行が減り、食品が余ってしまうとか、値段が下がって収入が減ってしまう…という話は 聞いたことのある方も多いと思います。
もし、そんな状況で、飼っている豚に病気が出て全部殺処分しなくてはならないことになったら…?
実際に、宮崎で 口蹄疫 という恐ろしい病気が出て、たくさんの動物を殺処分した後。
廃業した方がたくさんおられたそうです。
それだけではなく、一家心中や 自殺してしまったかたもおられたのですね。
養豚家、酪農家にとって、それだけ 飼っている動物に伝染病が出るというのは、重いことなのです。


軽い気持ちで 美味しそうな肉製品を買ってしまった。
ソーセージ、ウインナー、ベーコンにハム。
せっかくなら、本場のヨーロッパからお取り寄せ。
それくらい気軽な気持ちでも、恐ろしい病気につながるかもしれない。
それがもとで、たくさんの動物が殺され、関わった人が亡くなるかもしれないんです。


「うちのマンションのゴミ捨て場は、部屋になっているし、直接収集車が持っていくから大丈夫」?
そんなことはありません。
収集車からこぼれ落ちるかもしれません。
運んでいく途中で何があるか、誰にもわかりません。
大丈夫、と自分に言い聞かせて声高に言い張っても、最初から やってはいけないことなんです。


そう。
輸入禁止なものを持ち込むことは犯罪です。
麻薬やピストル、海賊版や偽ブランドと同じですね。
直接人に危害は加わらないから、気軽にやってしまいがちな 食べものの密輸入。
でも、それがもとで、何千何万の人が たいへんな思いをしたり、死んでしまう命も。
ぜったいに やめてくださいね。


この記事は、全国で豚を診察したり、豚に関わっている 1号の仲間たちの代表として書きました。
食べものの密輸は、たくさんの命を殺します。
絶対にやめましょうね。


国産のお肉、国内で加工した肉製品、美味しいですよ!