はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

犬のワクチンでは、新型肺炎は予防できません

先週のこと。
切羽詰まった声で、お電話をくださったかたがいました。
「先生のところでは、混合ワクチンは打てますか」
「打てますよ」
「初診でも?」
「打てます」
「犬じゃないんですが」
「猫用のもありますよ」
「いえ、犬じゃないけど、犬用のワクチンを打ってほしいんです」
「…?フェレットちゃんですか?」
「違います。私に、犬用のワクチンを打ってほしいんです」
「ええ!?私、って、人間?ですよね?」
「そうです。私、持病があるので、コロナウイルスにかかったら重症化すると思うんです。でも、事情があって仕事はぜったいに休めないし、マスクももう残り少なくて。犬用のワクチンにコロナが入ってるってインターネットで見たので、いま打ってもらえる病院を探しているんです」
「いや、犬用のワクチンをヒトには打てませんよ」
「どうしてですかッ!」


嘘だろう、と思いますか?
嘘ではないんです。
これは1号が実際にいただいたお問い合わせでしたが、1号がお話した方の他にも、似たようなご連絡を受けたという人はいろんな動物病院にいるようです。
女性、男性、老いも若きもさまざまな年代の人が、全国各地に相談をしているようですよ。


まず、いちばん重要な結論から。
犬用の混合ワクチンでは、新型肺炎、つまり 2019nCoV感染症は防げません。
また、動物病院でも、人間の病院でも、ヒトにイヌ用のワクチンを打つことはできません。


防げない理由。


それは、犬用の混合ワクチンが効くコロナウイルスと、2019nCoVが違う種類のウイルス だから。


コロナウイルスは、お伝えしてきたように、さまざまな動物にさまざまな病気を引き起こすウイルス です。
鶏、豚、ネコ。
人間でも、いわゆる季節性の風邪の原因が、コロナウイルスであることが多い ということ、この新型肺炎騒ぎが起きてからは特によく知られるようになりましたよね。


こんなふうに、いろんな種類のある コロナウイルスですから、ワクチンもそれぞれに必要なんです。
犬用の混合ワクチンに入っているコロナウイルスワクチンは、犬のコロナ予防にしか使えないワクチン。
これで、nCoVは防げないのです。


それに、犬用のワクチンは、イヌに最も効果が出るように作られています。
ヒトなど、イヌ以外の動物に使った場合、効果が出ないどころか、却って良くない副作用が出ることもあるんですね。


そもそも、nCoVによる症状は、ほとんどの人にとっては 単なる風邪。
中でも、だるさが強く出るようだ、という分析もあるようです。
もともと何か病気がある方、身体の弱っておられた方や、風邪を引いても休めず(休まず)に頑張り続けた方が 重症化しやすいとはいえ、パニックを起こすほどのことではないんですね。


クルーズ船に乗っておられ、亡くなった方。
国内で感染され、亡くなった方。
武漢で、患者さんのために戦い抜かれた方。
そういった方々の訃報のたび、こうした 科学的に考えておかしな方法、意味のない対策がもてはやされます。
曰く、乾布摩擦や冷水浴がいい。
→だめとは言いませんが、すぐに効果が出るとは思えず、症状がある場合はおそらく逆効果です。
漢方が効く。
→効くとされているものは、本来、体質改善を目的とするもののようですので、症状が出てから飲んでも自分の免疫力で回復するほうが早い。
マスクで予防できる。
→ウイルス 粒子のほうがマスクより小さいので、あまり意味はありません。


犬用ワクチンで予防できる、という珍説も同じこと。
意味はありませんし、そもそも打てません。
それよりも、その電話をしている間に手洗いをし、アルコール消毒をするほうがずっと理にかなっており、確実な予防につながります。


こういうときだから、だからこそ、落ち着いて科学的な考え方、ものの見方をしていきたいですね。
科学的な治療を ご希望のあなたのご来院、お待ちしています。