はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

空前のネコブーム!その前に…

やっとスギ花粉が落ち着いてきた 今日このごろ。
こんどは また別の花粉に反応している 代診1号です。
ぶぇっくし!!

先日行った 某ペットショップにて。
「いま、ネコのいる暮らしが流行っています!一人暮らしでも、お世話ができなくても大丈夫!あなたもこの子と新生活、はじめませんか!?」…などという 恐ろしいPOPのついた ケージの中で、くつろぐ子猫ちゃん。

家族って、流行りで増やすものではないはずですが、ひとたび流行っていると見るや テレビも雑誌もその話題ばかりになってしまい、ついその気になってしまうこと ありますね。
当院では、さいわいそんなにおかしな方に遭遇したことはありませんが、ペットショップ勤務の1号のお友達に言わせると、ネコブームとテレビで見るようになってからは、やっぱりすごいことを言ってくる人が増えてきたそう。
「ネコは世話がいらないとネットで見たから飼ったのに、毎日エサやトイレで大変だから返品したい。少し面倒をみてやったので、ペットホテル代をプラスして返金しろ」とか、「お店で買ったネコがブランド物のカバンにオシッコをしたので弁償しろ」とか。
中でも一番すごかったのが、「お店でネコを買ったあと、妊娠していることがわかった。妊婦はネコを飼ったらだめなのに、どうしてくれるのか。返金しろ、慰謝料も払え」と言ってきた人だったそうで、他にも色々とあって 結局警察に来てもらう事態になったとか。

ちなみに、「妊婦はネコを飼ったらだめ」というのは、おそらく トキソプラズマ という寄生虫のことを言っているんだと思いますが、正確には「しばらく放置されていた、寄生虫にかかっているネコのウンチからうつる可能性のある寄生虫が、妊婦さんのお腹の赤ちゃんの脳に入って悪さをすることがある」ということ。
その寄生虫は、すべてのネコさんが持っているというわけではないですし、ウンチを長いこと放置せず、始末するときは手袋やスコップなどを使って ウンチに直接触らないようにする、ウンチを取ったあとはすぐによく手を洗うようにする…など、ごく普通のことをするだけで、十分防げるものです。
さらに、この寄生虫が赤ちゃんに悪さをするのは、妊娠中にお母さんがはじめて寄生虫にかかったときだけ。
以前にこの寄生虫にかかったことのあるお母さんなら、赤ちゃんに入り込むまえに お母さんの免疫システムが寄生虫を撃退しますので、ほとんど恐れる必要はないといわれています。
(そうは言っても、妊娠してると何もかもが心配ですよね。もし、少しでも気になるようなら、早めにかかりつけの産婦人科の先生と、動物病院にご相談くださいね)

さて、そんな おかしな人もいるいっぽうで、善意からとんでもないことをしてしまう方が この時期たくさんいらっしゃいます。
それは 子ネコさらい。
つまり、子ネコの誘拐です。

春は、ネコさんの繁殖の時期。
ノラ猫さんはもちろん、飼い猫さんでも 避妊や去勢をしていなければ、赤ちゃんが生まれる可能性がありますから、
この時期、よちよち歩きの赤ちゃんネコを連れた お母さんネコをよく見かけるようになると思います。
おとなのネコさんは、人間を見てサッと逃げられても、子ネコちゃんは動きが遅いので 逃げ遅れることがあるのですね。
それを見て、子ネコちゃんが置いて行かれた!育児放棄!保護しなきゃ!と 無駄な義務感にかられて 子ネコちゃんに手を出してはいけません。

基本的に、赤ちゃんネコの面倒は、お母さんネコさんがみます。
道端で子ネコちゃんを見かけて、迷子かな?保護したほうがいいのかも…と思ったら、まずは一度立ち去ってください。
人間がそばにいると、お母さんネコは迎えに来れません。
車道だったり、カラスや大きい鳥が狙っているようなら、草むらなど安全な場所に隠して 遠くからこっそりと様子を見てください。
ほとんどの場合、お母さんネコがちゃんと迎えに来ます。

子ネコちゃんを「保護」する方は、たいてい善意の塊です。
困っている小さい命を助けてあげたい。
強い衝動に突き動かされて、つい手を出してしまうんですよね。
テレビで取り上げられネットに載せられている、ネコにまつわる情報で、さらに自分を正当化できてしまいます。
ネコちゃんを飼えば、一人暮らしも寂しくなくなるかも。
ペットは子どもの情操教育にもいいっていうし、優しい子に育つかも。
いまネコは流行っているというし、ネコと暮らすってなんかオシャレ。
でも、簡単に手を出すまえに、もう一度よく考えていただきたいのです。

ネコはごはんを食べます。あなたと同じで、好き嫌いがあるし、中にはアレルギーや病気で処方食しか食べられない子もいるんです。1kg数千円のごはんしか食べられなくなっても、ちゃんと必要なだけ食べさせてあげられますか?
ネコは水を飲みます。蛇口から流れ落ちる水が好きな子もいますし、蛇口のタイプによっては自分で水を出して飲む子もいます(たいがい、飲んだ後に水を止めることはしません)。ネコがひとりで留守番していた間じゅう、出しっ放しになっていた分の水道代、払えますか?
ネコはウンチやオシッコをします。臭いがしますし、トイレでしたとしても掃除が必要です。ゴミもたくさん出ます。ちゃんと始末できますか?
ネコも病気になります。嫌がって逃げてもちゃんと捕まえて、病院へ連れていけますか?ペット保険に入っていなければ、人間の普通の病院に行くより多くかかることがほとんどです。必要な治療をちゃんとしてあげられますか?
ネコは物を壊したり、汚したりすることがあります。賃貸の部屋の壁紙で爪を研いだり、パソコンの上で吐いたり、高価な花瓶を倒して割ったりするかもしれません。悪気はないんだと自分を慰め、ネコは許してあげられますか?
ネコは武器を持っています。あなたのお子さんが「ペットのおかげで優しい子に育つ」より、ネコにケガをさせられる可能性のほうがはるかに高いですが、それでも飼いますか?

どれか一つでも、それはちょっと…と思ったなら、あなたは今ネコを飼う時期ではない ということです。
ブームに乗らない自分 かっこいい!と思っていてください。
何より、ネコを飼うというのは、手のかかる家族がひとり増える ということ。
流行ってるから、かわいいから、子どもが気に入ったから といって安易に飼おうとしないでください。
ペットショップの子が高いから飼えないんじゃなく、 わたしは不幸なネコちゃんを幸せにしたいんだと自分を正当化させながら、子ネコちゃんをお母さんから誘拐するのも、絶対にやめてください。

ブーム とか 流行り とか、しょうもないことで 不幸なことが起こらないことを 祈っています。
それは、ネコちゃんにとっても 飼い主となる人にとっても お互いに不幸なことですから。