はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

災害のあとの、伝染病の話

倉敷の水害から、早2年。
あの日も七夕でした。
そして、今年も七夕。
自分だけは…まさか…
そういった安全バイアスこそが、命取りとなることもあります。
あなたの家より、あなたの車より、1号はあなた自身が大切です。
逃げるべき?と迷ったときは、1号のために逃げてください。
あなたの命を守る行動を、どうか。


災害の後は、汚れがひどく、衛生状態が悪くなるため、伝染病が心配です。
中でも、水害の後に特に心配なのが、傷口から菌が入るタイプの病気や、水をなかだちにして広がっていくタイプの病気です。


具体的に見ていきましょう。


まずは、最近ニュースでも取り上げられています。
破傷風
これは、傷口から菌が入るタイプの病気です。


ふだん、破傷風の菌は土の中にいます。
空気中くらいの酸素濃度があると死んでしまうので、砂場や公園といった 浅いところよりは、そこそこ深い土の中に多くいる菌です。
この菌は、大規模な災害…特に、水害や地震など、土が深く掘り返されてしまうような災害の後に出てくることが多いのですね。
空気中では生きられない とはいえ、災害で土が掘り起こされて空気に晒された後、死に絶えるまでには それなりの時間がかかります。
この間に、わたしたち人間の身体に入り込めば、病気を起こす原因になるのです。


破傷風という病気は、菌自体が増えて内臓にダメージ、というものではありません。
菌の作り出す毒素に中毒を起こしてしまう病気なのですね。
また、この菌の恐ろしいのは、作り出す毒素がとても強いこと。
ごくごく少量でも症状が強く出るため、世界最強の毒素なんて言われることもあるくらいです。
具体的な症状としては、手足の硬直、背中のエビ反り、呼吸困難などがあります。
この毒素は神経に作用するので、神経に支配されている筋肉に症状が出るのですね。


破傷風自体には、ワクチンがあります。
3種混合(DPT)ワクチンで予防ができるのですが、ワクチンを打っていなかったり、ワクチンで免疫がつきにくい体質だったりすると、きちんと抗体ができないことも。
そうなってしまうと、ごく小さな傷からでも、菌が入って 病気になる可能性があるんです。


では、どうすれば良いかというと、切り傷・擦り傷など、血が出るようなケガをしないこと がとても大切です。
後片付けなど、ケガをしそうな作業をするときは、長袖や長ズボン、軍手、長靴などで 皮膚を出さずに作業をすること。
これがとても大切です。
また、ごく小さな傷からでも 菌が入り込んでしまうことがあるため、定期的に手足を石鹸でよく洗うことも大切です。
破傷風菌は、消毒液がとても効きにくいという特徴がありますので、消毒液で拭くなどの対策よりも、洗って物理的に傷口から流し出す方が効果的です。


そして、水をなかだちにして広がってゆく病気。
わたしたち獣医師としては、やはりレプトスピラが気になるところです。


レプトスピラは、いろいろな哺乳類の腎臓に住みついている菌で、おしっこに混じって出てきます。
日本では、山奥などにいる野生のネズミなどがこの菌を体内にもっていることが多いと考えられています。
こうしたネズミのおしっこが混じっている可能性のある水や、湿った土から広がることの多い病気なのですね。
上下水道の整備された日本では、あまり見ることの少なくなった病気ではありますが、水辺のレジャーを楽しむ方々の間では 知られた病気でもあります。


東南アジアなど、しばしば洪水の起こる国々では、洪水のあとに この病気の患者さんがたくさん出ることがわかっています。
レプトスピラには、とてもよく効く抗生物質がありますが、まずは診断がつかなければ 抗生物質も使えませんから、
避難する際などに 水に浸かった方はもちろん、後片付けをされた方も、充分に気をつけるようにしてくださいね。
コロナやインフルエンザにも似た症状が出ることが多いため、特に 今は受診もなかなか難しい可能性がありますから。


この病気も、予防をするには 作業をするときに水が素肌に直接触れないような服装をすることが大切です。
具体的には、長袖・長ズボン・長靴に、できれば ビニール手袋をしてから軍手。
もちろんマスクも大切です。
レプトスピラは、らせん菌といって、ウイルスよりもかなり大きいので、布マスクも充分に効果があります。
直径約0.1μmの球状のコロナウイルスに対し、レプトスピラは直径こそ同じ約0.1μmですが、長さは60μm-100μmといわれています。
つまり、1000倍の長さがある ということ。
これだけの大きさがあれば、一般的な布マスク…いわゆる アベノマスク でも充分に捕捉ができますよ。


伝染病は、どのようにしてうつるのか?がわかれば、予防の可能性が高まります。
感染経路対策のみが絶対ではありませんが、大きな要素ですよね。
大きな災害の後は、破傷風も、レプトスピラも、100%避けられない状況だから。
感染経路対策は 確実に押さえていきましょう。
あなたのご来院、お待ちしています。