はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

猫と心臓病 「風が吹けば桶屋が儲かる」

寒いですね。
寒さにもいろいろありますが、忘れられないのはやはり 某国での寒さ。
気温はマイナス20度以下が当たり前なのですが、向こうで気にしているのはそれより何より 体感温度
実際の気温がどうか?より、何度くらいの寒さと感じるか?が大事なんです。

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川が凍り出す時期。

来てます。寒波が来てます。

 

そんな某国、天気予報に欠かせないのが 「ウインド・チル」の有無でした。
これは、日本で最近使われるようになった、「チルってる=心地いい」とは、真逆の意味。
ウインド・チルとは、北極からの風が強く吹くことなんです。
すごく冷たい風が吹いてくるので、気温は高くても 体感温度がむちゃくちゃ下がります。
晴れた日など、「今日は気温はマイナス20度くらいまで上がりますが、お昼ごろはウインド・チルがあるので、体感温度はマイナス40度以下。室外へ出るのは避けましょう」なんて、予報を聞くことがあります。
低すぎてなんだかよくわかりませんが、気温の差でいうと、20度くらいです。
この差を、日本で考えてみます。
いま、12月の東京の平均気温は 12度。
8月の平均気温が、ちょうど20度くらい上、31度くらいです。
つまり、風が吹くだけで、実際の気温は8月なのに、12月くらいに感じられてしまう、というのが、ウインドチルなんです。


たかが 風。
でも、気温を20度も下げて感じさせるくらいの力があるのが 風なんですよね。


そんな 風。
風が吹けば桶屋が儲かる、ということわざを ご存知でしょうか。
1. 風が吹くと、埃が立つ
2. 埃が目に入り、目の病気で失明する人が増える
3. 失明した方は音楽を生業とすることが多いので、三味線の需要が増える
4. 三味線の材料にされるため、猫が減る
5. 猫が減ると、ねずみが増える
6. 増えたねずみが桶をかじって壊す
7. 桶の需要が増えるので、桶屋が儲かる
というのが一般的ですが、オホーツク海沿岸では違うのだそう。
オホーツク海沿岸バージョンでは、
1. 北風が吹くと、流氷が接岸
2. 室温が氷点下になる
3. 水場で使われる桶が凍結し、壊れる
4. 桶の需要が増すので、桶屋が儲かる
と、全く別な流れで 桶屋が儲かるのだそうですよ。

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寒波により、完全に凍りついた時期の同じ川。

セントラルヒーティングがなければ、確かに、室内のものが壊れてもおかしくないかも。


ところで、足の痛みから、心臓の病気がわかることがあるのを ご存知ですか。
一見、まったく話がつながらないようですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」のと同様、背後には隠された流れがあるんです。


足の痛みを引き起こす 心臓の病気。
それは、肥大型心筋症 という病気です。


肥大型心筋症とは、その名の通り、心筋が肥大する病気。
ひらたくいえば、心臓の筋肉が 分厚くなる病気です。
筋肉体操などで鍛えられる、いわゆる 裏切らない 筋肉とは違い、心臓のような臓器は 平滑筋 といって、鍛えても大きくはならない筋肉でできています。
これが、大きくなってしまう病気。
それが 肥大型心筋症なんです。


心臓の筋肉が大きくなる、つまり、心筋が分厚くなると、何がいけないか。
まず、心臓の中の部屋、血液を貯めておくスペースが 狭くなります。
これにより、一回の鼓動で 押し出せる血液の量が少なくなりますね。
全身に血液を巡らせるために、鼓動の数が増えるわけです。


さらにいけないのは、鼓動がうまくできなくなること。
そもそも、心臓は、電気信号で鼓動を生み出しています。
縮め!という電気信号が心臓の筋肉に伝わるから 縮む。
縮め!の信号がなくなるので、ゆるむ。
これの繰り返しが 鼓動です。
ということは。
縮め!の信号が、心臓の筋肉にうまく伝わらなかったり、伝わっても 縮むことができない場合。
心臓は鼓動ができません。


病気で大きくなってしまった 心臓の筋肉は、信号をうまく伝えられず、伝わっても うまく縮むことができません。
つまり、鼓動ができないんですね。


鼓動ができないということは、心臓が止まっているのと同じこと。
全身に血液が巡らないわけです。
でも、止まりっぱなしではありません。
止まりっぱなしでは死んでいたり、倒れたりします。
病気が進行して 重症になれば、もちろんそうなることもありますが、初めのうちは ときどき脈が飛ぶとか、脈が乱れる状態になります。


この、脈が飛んだり 乱れたりしているとき。
血液はどうなっているか?というと、澱んでいます。
巡らない、動いていないわけですからね。


するとどうなるか。
しだいに集まり、固まって、栓を作ります。
これが突然、後ろ足のほうへと伸びている血管に詰まってしまうことが ねこさんではよくあるんですね。


脳の血管に栓が詰まると、脳梗塞を起こします。
このとき、感じる症状としては、「経験したことのないほどの頭痛」「バットで頭を思い切り殴られたような痛み」など、とにかく強い痛みが出ます。
これと同じことが 足に起きるわけです。
脳梗塞と違い、意識はありますから、痛いままなのですね。


そうです。
これが、足の痛みから 心臓病がわかる!?の流れ。
1. 心臓の筋肉が病的に分厚くなる
2. 電気信号がきちんと伝わらなかったり、伝わっていても送り出せる血液の量が減る
3. 血液の巡りが悪くなる
4. 血液が澱み、血栓が出来る
5. 血栓が詰まって、痛みが出る
全身のうち、到達するまでの道のり=血管が長い分、途中で詰まるリスクが高いのが 足。
そして、動かす部分なので、より症状が分かりやすいのも 足なんです。


…すっかり 長くなりました。
次回、治療と予後(その後)を お送りします。


当院、かなり 経験を積んでいます。
ある日急に足が動かなくなり、ニャーニャーと騒ぐようになったら。
出来るだけ早く、病院へ連れて行ってください。
それは、様子を見ていても、良くならないどころか どんどん悪くなっていく病気。
引っ張れば引っ張るほど、時間もお金もかかるし、命にも関わる病気です。


あなたのご来院、お待ちしています。