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飛行機に乗れない犬。短頭種症候群のはなし

夏です。
それでも、いつの間にか時間は過ぎ、季節は進んでいて。
日の出は少しずつ遅くなり、日の入りも早くなり…
短い夏が終わっていきますね。
素敵な思い出を作れていますか?


夏の思い出といえば、やはり旅行。
中でも、飛行機に乗るくらいの長距離旅行となると。
夏休みくらいの機会がないと、なかなか出かけられませんよね。


実は、飛行機に乗るには いろいろと健康上のチェック項目があるのだそう。
爆発するかもしれないから、酸素ボンベの手放せない人は乗れないとか、
閉所恐怖症、パニック発作のある人は、最後の発作から何日か経っていないと乗れないとか、
ほかにも オストメイトや 妊婦さんなど、さまざまな人が チェックに引っかかる可能性があるのだそうです。


どうぶつたちの場合、もっとも引っかかる可能性が高いのが、呼吸器疾患。
中でも、タイトルにもした 短頭種症候群で、夏場は飛行機に一切乗せてもらえない という犬種があるのを ご存知でしょうか。


短頭種症候群というのは、パグちゃんやシーズーペキニーズ、フレンチブルや一部のチワワちゃんのように、鼻の潰れた顔の犬種に多い呼吸器の病気。
息をするときに、アヒルの鳴き声のような、イビキをかくような音がするので、すぐにわかります。
こういった子たちは、あの愛嬌のある顔立ちや体型と引き換えに、
・鼻の穴=空気の取り込み口が小さい
・軟口蓋(人間ののどちんこ周り)が大きく、空気の通り道が塞がりやすい
・運動に向かない身体の作りなので、太りやすい
といった特徴があります。
つまり、空気をうまく身体に取り込めない という特徴があるんですね。


この病気は、ほぼ その犬種であることとイコール。
あの顔立ち、あの体つきなら、程度の大小はあっても 必ず持っているものです。


飛行機にどうぶつを乗せると、気圧の関係で どうしても平地よりは むくみやすくなります。
1号も、妊娠中に何度か飛行機に乗りましたが、国内線でもそこそこ、国際線では 靴が履けないくらいのむくみに悩まされました。
足が小さいので、日常で靴が履けないくらいまでのむくみになることはほとんどないのですが、気圧ってすごいですね。
機内ではそれなりに調整されているのに、こんなになってしまうんだな…と 驚かされます。


実は、この むくみこそが、短頭種の子たちが 夏に飛行機に乗せてもらえない大きな理由なんです。
というのも、短頭種症候群では、軟口蓋という部分がむくんで のどを塞いでしまうことが多いから。


軟口蓋というのは、人間でいう のどちんこのあたり。
どうぶつには わたしたちのような形ののどちんこはありませんが、気管につながる 軟らかいあのへんです。
カ とかガ とかの音を出すときに、舌が当たる場所でもありますね。
もともと、短頭種の子たちは、この 軟口蓋が長めです。
長いうえに、むくみやすいとなれば、塞がってしまっても まったく不思議はありません。
ここが塞がってしまうと、気管の手前が塞がってしまうわけですから、息ができなくなります。


軟口蓋が大きく、気管にかぶってくると、呼吸をするときに音が出るようになります。
これは、軟口蓋が 気管を通る空気によって震えるから。
つまり、軟口蓋がサックスのリードのような役割をして 音が出るわけです。
そして、これがあのイビキのような音の正体です。


すでに イビキ音がしている子はもちろん、まだの子も、飛行機に乗ると 症状が悪化してしまいやすい。
だから、この犬種の子たちは、夏に飛行機には乗せてもらえないことがあるんです。


意地悪では ないんですね。


呼吸をするとき、ガーガーとアヒルの鳴くような声や、大きなイビキが聞こえるようになったら。
一度、病院へ連れてきてください。
あなたの来院、お待ちしています。