はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

犬と心臓病① 僧帽弁閉鎖不全症

過去の自分に元気をもらったり、ベッドに頭からダイブして 枕に顔を押し付けながら、わー!と叫びたい気持ちにさせられたり。
長くブログを書いていると、いろいろなことがありますね。
ごきげんよう、あなたの1号です。
(数年前のテンションを引きずりながら)

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1号が思い出しジタバタから復帰するまで、しばらく綺麗な写真をお楽しみください


さて。
前回の記事→http://kurimotoah.hatenablog.com/entry/2019/07/12/172911
で、これから少し 病気の話をしようかなあなどと考えておりました。
有言実行、とまではいきませんが、有言手を付ける、くらいは (忘れちゃうから)やっておきたいタイプの1号です。


最初のターゲットは、前回少しお話に出た 心臓病の話を。
中でも、マルチーズシーズーなどといった小型犬に多い、僧帽弁閉鎖不全症 という病気の話です。


心臓というのは、4つの部屋のある臓器。
人間では、握りこぶしくらいの大きさの臓器です。
握りこぶしの中が、上下左右に分かれていて、左右は筋肉の壁で隔てられていますが、上下を隔てるのは弁という、パラシュートのような形の薄い膜。
それぞれ、右にあるのが三尖弁(さんせんべん)、左にあるのが僧帽弁(そうぼうべん)という名前がついています。


僧帽弁閉鎖不全症というのは、その名のとおり、左側の上下を隔てる弁がきちんと閉まらなくなってしまうという病気。
弁の開け閉めは、心臓の内側の壁とくっついたひもが担当していますが、このひもが ダランと伸びきってしまったり、切れてしまったり、弁自体が 分厚くなって きちんと閉めているのに すき間ができるようになってしまうことがあります。
僧帽弁閉鎖不全症とは、そんな病気なんです。


じゃあ、弁がちゃんと閉まらないと、なぜいけないか?
なぜ病気になるのか?
それは、心臓の役割が 代わりの効かない大切なものだからなんです。


そもそも、心臓というのは、全身に血を巡らすポンプと、肺に空気を回して呼吸をさせるポンプ、二つのポンプの役割を担っています。
僧帽弁閉鎖不全症は、この ポンプの働きが落ちてしまうという病気なんですね。


わたしたちにとって 身近なポンプといえば、自転車用の空気入れでしょうか。
僧帽弁閉鎖不全症は、自転車のタイヤの 空気入れ孔に、きちんと空気入れの先がはまっていない状態です。
こんな状態では、頑張ってシュコシュコとポンピングしても、空気が漏れてしまいますから、頑張ったわりに タイヤにはあまり空気が入りませんよね。
それと同じで、僧帽弁閉鎖不全症になると、頑張って心臓は鼓動するのに、全身や肺に血液が効率よく巡らなくなってしまうんです。


血液を巡らすポンプが効率よく働かないということは、体の中での 液体の動きが悪くなる ということ。
その結果、肺に水がたまる 肺水腫が起きたり、肺でうまく酸素を取り込めなくなったりします。
水にじゃまされ、肺の働き自体が悪くなったり、肺はきちんと働いていても、肺から全身に酸素を巡らすことが 効率よくできなくなるわけです。


するとどうなるか。


たとえば、酸素を100行き渡らせる必要があるとしましょう。
そして、100の酸素を行き渡らせるためには、100の血液を巡らさないとならないとします。
僧帽弁閉鎖不全症でない子が、一度の鼓動で20巡らすことができるなら、鼓動5回で100巡りますね。
でも、病気の子は、一度の鼓動で10しか巡らすことができません。
すると、同じ100巡らすためには、倍の10回の鼓動が必要になるんです。


それだけではありません。
100の酸素を行き渡らせるということは、その分の酸素を取り込む必要があります。
病気でない子が、一度の呼吸で10酸素を取り込めるとすると、100取り込むには10回の呼吸が必要になります。
ところが、病気の子は、一度の呼吸で取り込める酸素は5くらい…
そうなれば、呼吸は20回。
病気でない子の倍、呼吸をする必要があります。


病気の子は、こういった流れで、少し運動しただけで、すぐに息が上がってしまったり、脈が早くなってしまう、頻脈といわれる状態になってしまったりするんですね。


わたしたちは、こういった子には、心臓の負担を取るようなお薬を使います。
お薬でポンプの不具合を治すことはできませんが、たとえば、ポンプにつながるホースが太ければ、流せる血液は多くなります。
つまり、血管拡張剤 といわれる薬を使うことがあります。


また、肺に溜まった水分を おしっことして体の外へ出せるよう、利尿剤を使ったりもしますし、
強心剤で 心臓の働きを助けたり、心臓の働きを抑えて 休ませるような薬を使うこともあります。


僧帽弁閉鎖不全症は、小型犬に多い病気です。
実は、この病気にいちばん良くないのが、怒ること。
嗅ぎ慣れない臭いや 聞きなれない音、チャイムの音や 宅配便のトラックの音にカーッとのぼせ、歯をむき出しながら玄関へ走っていくにも、大きな声で吠えるにも、酸素をたくさん消費してしまいますから。
でも、小型犬たちは、一般的に怖がりでおこりんぼうの子が多いです。
そうすると、どうしても 悪化させてしまいがちです。


病気の悪化を 最小限に食い止めるには、やっぱり 生活改善が重要です。
中でも、血管を狭くしてしまいがちな 塩気のつよい食事やジャーキー。
こういったものはできるだけ 与えないようにしていきましょう。
薬を きちんと飲ませることも、とても重要です。


最近、なんだかやたらとハアハアいうようになったとか。
疲れやすいようだとか。
気になることがあれば、できるだけ早めに ご来院ください。
心臓の治療は、早く始めるほど いい状態をキープできます。


あなたのご来院、お待ちしています。