はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

秋田犬のプレゼント

花粉症について、熱い記事を書いていた ここ最近の1号。
ですが、聞き捨てならないニュースが飛び込んできました。
ごうがーい!ごうがーい!!

というわけで、秋田犬について。
平昌五輪のフィギュア女子金メダリスト、アリーナ・ザギトワ選手に、プレゼントとして秋田犬の子犬が送られたそうですね。
いままでの日本の傾向からして、これを機会に 秋田犬が流行してしまわないとも限りません。
事前に警鐘を鳴らしたいと思い、この記事を書いています。

先にお伝えしておきますが、1号は秋田犬が大好きです。
嫌いで悪口を言っているわけではありません。
が。
秋田犬は、特殊な犬です。
アリーナ・ザギトワ選手のように、写真を見て一目惚れ→飼いたい→飼う!となっている人。
ちょっと待ってください。

まず、秋田犬のあのフサフサモコモコ。
あれは秋田の厳しい寒さに耐えられるように生える毛です。
マタギといわれる猟師といっしょに、雪深い山に入って夜を過ごすような生活をする犬のための毛です。
東京の夏には耐えられません。
東京で秋田犬を飼うのなら、かれらが快適に過ごせる冷房代を出す覚悟が必要です。
電気は最大アンペアでは足りませんから、業務契約になるでしょう。
1台では、壊れた時即命に関わりますし、おそらく冷房性能が足りませんから、大きなエアコンを複数台設置しなくてはいけません。
買ってきてつけられるようなサイズでは厳しいですから、おうちをリフォームする覚悟も 必要ですね。

つぎに、秋田犬は大きくなります。
日本犬最大の犬種が秋田犬なのです。大人になったら30kg超えは当たり前の大型犬です。
大型犬が本気を出したら、そこそこ鍛えた男性でも引っ張られます。秋田犬は猟犬ですから、本気になると見境がなくなるところがあります。
制御できない人が飼うと、たいへんなことになるでしょう。
また、秋田犬に限りませんが、大型犬は病院通いが多いです。
時間的にも、費用的にも、体調を崩したときにきちんと病院に連れていける人でないと、お互いが不幸になります。

たとえば、都内在住で小学生ふたり、日中パートのおかあさんと終電まで働くおとうさん。家は持ち家で小さい庭、週末は家族で遊びに行ったり、のんびり家で過ごしたり。
そんな家庭で、覚悟も準備もなく 秋田犬を飼ったら どうなるでしょう。
まず、子どもたちは二人とも ケガだらけになります。
犬に倒されたり、突き飛ばされたりがしょっちゅうです。
二人のうちどちらかは、骨折レベルのケガを何度もするかもしれません。
それから、おかあさんのパート代は、全部病院代で使い果たすことになります。もしかすると、おとうさんの残業代も。
子どもたちの病院代、犬の病院代、犬がケガをさせた人の病院代も払うことになるかもしれませんから。
そして、終電まで働くおとうさん。
週末は犬を連れて病院通いが定番になります。
おとうさんしか犬を制御できませんから、週末家族で遊びに行くのも 家でのんびりももうできません。
そして、犬自身。
おとうさんのいない平日は、危ないので散歩にはいけません。
仕方なく庭に放されていますが、狭いのでヒマを持て余し、吠えたり家屋をキズだらけにしたり。
こんなはずじゃなかったのに。
微笑んでいるみたいな顔で、おかえりなさいとそっと迎えに来てくれる大きな犬。
フワフワの毛に顔をうずめると、温かい舌でそっとなめて愛情を伝えてくる。
ああなんてかわいいんだろう、秋田犬ってほんとうに最高。
そうなるはずだったのに…

秋田犬はもちろん、犬を飼おうと考えている みなさん。
もう一度、よく考えてください。
かわいいだけでは犬は飼えません。
散歩、しつけ、うんちやおしっこの始末、ごはんの世話、ワクチンの接種や登録に、毛の手入れ、健康管理。
ありとあらゆることが すべて飼い主の責任です。
暑くても、寒くても、雨の日も、雪の日も、花粉やPM2.5のひどい日も、足を骨折している日も、インフルエンザにかかって一家全滅した日も。
それでも犬の世話ができますか?
犬を飼うこと、犬と暮らすこと。
そこに、そこまでする価値を見いだせる人だけが、犬と暮らせるのです。
かわいいから。
犬を飼ってみたいから。
犬がいる暮らしってなんか素敵。
そんな理由で、不幸な犬を作ってはだめです。

犬を誰かにプレゼントしようとしている方。
犬をプレゼントすることは、もらった人の人生の一部を あげた犬のために使うことを強制することです。
もう一度、よくよく考えてください。

繰り返しになりますが、当院も1号も ザギトワ選手はもちろん、彼女に秋田犬を贈った人を 批判する意図はありません。
ただ、犬が、中でも 大型犬が好きでたまらないから、不幸になる犬や 犬のせいで悲しい思いをする人をなくしたい。
そう願っています。