はい、栗本動物病院です。

東京都小平市の栗本動物病院です。ときどき更新しています。

SFTSって、なんですか?その2

いきなり涼しくなりました。
気温や気候が いきなり変わったり、台風など低気圧で 体調を崩しやすくなります。
9月は新学期、年度の後半に突入と、学生さんも 元・学生さんも、無理をしがちな時期ですが、たまにはゆっくり休みましょうね。
(鼻水を垂らしながら)(1号もまた鼻風邪の気配がします…)

さて。
先日の記事(http://kurimotoah.hatenablog.com/entry/2017/08/22/155903)に、大反響をいただいています。
某時事問題のときに続き、当院ブログ、たくさんの方にお読みいただいているようですね。
いつもありがとうございます。

この記事に関連してなのかはわかりませんが、先日 twitterでちょっと気になるツイートがありました。
ツイート主さんが消されてしまったのか、引用することができないのですが、「野良猫からSFTSをうつされて亡くなった方がいるそうで怖い。もし近所の野良猫から病気をうつされてしまったら…猫を駆除してほしい」といった趣旨のもの。
こ、これは…!
わたしたち獣医師が、SFTSの報道を目にするたびに 心配してきたこと。
それが、現実になってしまおうとしている…
そう感じて 記事にすることにしました。

SFTSが猫さんからうつった?というニュース。
あれは、まだ推測です。
事実としてわかっていることは、
①人間のSFTSと似たような症状で病院にかかったわんちゃん、ねこちゃんの血液やうんちから、SFTSのウイルスが見つかった。
②体調を崩したねこちゃんに咬まれてしまったことのある方のなかに一人、SFTSで亡くなった方がいる。
この二つだけなんですね。

SFTSは、まだ新しい病気です。
わかっていないことがたくさんあるのです。
順番に お話ししますね。

①について。
わんちゃん、ねこちゃんがSFTSにかかるのかどうかは、まだはっきりとわかっていません。
わんちゃん、ねこちゃんたちの体調不良の原因が、SFTSなのか、
別の原因で体調不良の子の体内から、たまたまSFTSのウイルスが見つかっただけなのか、まだわかっていないのです。
獣医学科の学生は、微生物学の講義で必ず習うのですが、コッホの原則というものがあります。
SFTSをはじめとした、伝染病のことを考えるとき、必ず押さえておかなければならない4つのポイントのことです。
ある伝染病に、1.特定の微生物が必ず関係していて、かつ、2.その微生物が分離でき、3.分離した微生物をほかの感受性のある動物に感染させると同じ病気にかかるうえに 4.同じ微生物がまた分離できること。
テロ事件でいえば、事件のたびに1.あるテロ組織がいつも犯行声明を出し、2.そのテロ組織は(他のテロ組織といつも一緒に事件を起こすわけではなく)独立して事件を起こす組織で、3.同じような状況を作ってやるとまた同じような事件が起きるうえに4.同じテロ組織がまた犯行声明を出す…というようなもの。
いまの状況は、事件は起きたし、現場に組織の人間がいたこともわかっているものの、犯行声明もまだ出ていないような状況。
ほんとうにテロなのか?それともただの事故なのか?
それもわかっていないという状況なのです。

②について。
ねこちゃんに咬まれたことと、SFTSで亡くなったこととの間に、因果関係があるのかどうかはわかっていません。
亡くなった方が、ねこちゃんに咬まれる前に、どこかでマダニに咬まれてSFTSにかかっていたかもしれないからです。
さきほどの、テロ事件のたとえを使えば、
テロ事件に巻き込まれて亡くなった方のなかに(=SFTSで亡くなった方のなかに)、テレビなどでテロ組織を批判してきた方がいて(=ねこちゃんに咬まれた方がいて)、その方が組織に暗殺された(=ねこちゃんからSFTSをうつされた)のか、テロ事件の現場に偶然居合わせた(=マダニからSFTSをうつされた)のか、まだわかっていないという状況です。

そう。
SFTSが ねこちゃんから人間にうつるという証拠はまだ見つかっていません。

これを短絡的に結びつけてしまい、猫さんからSFTSがうつる→野良猫は危険→駆除しなきゃ!という方向に進むことが どれだけ恐ろしいことか。
たしかに、SFTSは恐ろしい病気ですし、ねこちゃんに咬まれてうつされた可能性があるというのは 間違いのないことですから、
飼い猫ちゃんのダニ対策、外猫さんにむやみに触らない、ダニの駆虫をしてからでないと家には入れない。
そういった対策は、当然しっかりしなくてはいけません。
それは当然のことなのですが、そのいっぽうで、過剰に怖がったり 野良猫さんを駆除しようとしたりするのは 明らかにやりすぎです。
それは、テロリストにイスラム教徒が多いから、イスラム教を信仰する人の多い国から来た人の入国を禁止する とかいうことと同じなのです。

SFTSは怖い病気ですが、怖がり方をまちがえてはいけません。
そして、正しく対策すれば、それほど怖がる必要のない病気です。
正しい対策とは、ダニに咬まれないようにするということ。
草むらに行く時には、素肌を出さないこと。
そして、飼っているどうぶつには 動物病院で処方される薬をきちんと毎月使うこと。
ダニ対策をしていないどうぶつには、むやみに触らないこと。
この3つをきちんと守れば、SFTSを怖がりすぎる必要はないんです。

最近、ニュースなどで SFTSの話題がよく取り上げられます。
でも、いたずらに怖がらせ、危険危険と叫ぶばかりのものも多い気がします。
限られた時間で伝えると、どうしてもそうなってしまいがちですが、せめて当院ブログをご覧いただいているみなさまには、正しいことを知ってほしいと思います。

それでも、怖いという方は、ぜひお気軽に ご相談ください。
わたしたちの知識 お伝えいたします。